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地域医療と共生社会のかたち
2025年、日本の高齢化と地域医療
2025年を迎え、団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となり、日本は深刻な超高齢社会を迎えています。少子化の進行も止まらず、総人口が減少するなか都市部の人口集中が進み、地方都市の過疎化が加速しています。京都市左京区大原も例外ではなく、現在、口約1,800人のうち50%以上が65歳以上の高齢者(※)です。
しかし近年、大原の魅力が再認識され、新規就農者などの移住希望者も増加し、また地域コミュニティのつながりを活かした持続可能な地域づくりが進められています。その一翼を、京都大原記念病院グループが担っています。医療・介護を包括的に提供するだけでなく、従来の「支える側・支えられる側」という関係性を超え、一人ひとりが生きがいを持ち、助け合いながら暮らせる「地域共生社会」の実現に貢献してきました。 ※大原自治連合会だより(令和5年)より開院当時無医村であった頃の大原
無医村にはじまり、独自の役割を模索
京都大原記念病院は、地域が無医村だった1981年に開院しました。当初は住民の反対運動もありましたが、やがて、地域に根差した病院としての役割を確立していきます。大原は、京都市中心部から車で約20分という立地にありながら、豊かな自然と歴史・文化に恵まれた土地です。しかし、病院運営にとって決して容易な環境ではなく、医療資源の集中する市街地と競合しない独自の役割を模索する必要がありました。そこで選択したのがリハビリテーションです。以来、リハビリテーションを中心とした医療・介護サービスを提供し、1991年には介護老人保健施設博寿苑、1997年には特別養護老人ホーム大原ホームを開設するなど、地域社会の高齢化に対応した包括的なケア体制を整えました。景観との調和を目指した建築は第1回風致美観賞(京都市)を受賞
三位一体の拠点が完成(1997年)
包括医療の足がかりへ博寿苑開設(1991年)
入院生活の質を高める
病院開院10周年を迎えた1 9 9 1 年に創刊した機関誌行陵の巻頭企画で「これからの医療」を考える座談会を開催。医療、宗教、経済と多様な視点が集い、医療の役割は単なる病気やケガの治療にとどまらず、心のケアや社会的なつながりを含む包括的なものであるべきだと議論が交わされました。1991年創刊 機関紙「行陵」(~2005年)
この考えをもとに、京都大原記念病院グループは入院生活を「心豊かに過ごせる環境づくり」に力を入れ、地域の文化や自然も医療に取り入れました。三千院門跡の僧侶による法話や、地元大原野菜を食事に取り入れた地産地消、農業を取り入れた「グリーン・ファーム・リハビリテーション®」など、地域資源を活かした取り組みを積極的に展開してきました。病院敷地内の農園で取り組むグリーン・ファーム・リハビリテーション🄬
季節を感じながらリハビリテーションに取り組む
僧侶らと過ごす花祭り(三千院門跡式衆)
地域の実情に
応じた関わりへ
近年は、地域の自治連合会、社会福祉協議会などと連携し、新型コロナウイルスのワクチン接種支援や、高齢者の健康増進活動にも取り組んできました。2020年には内閣府と京都府の共同補助事業として「大原健幸の郷」を開設し、高齢者の健康づくりを目的としたフィットネスプログラムや地域交流の場を提供しています。関係団体と連携して大原全域から高齢者のワクチン接種を受け入れた
2024年4月から活動を支援する大原地域社会福祉協議会主催の「すこやか倶楽部」は、単なる健康講座にとどまらず、地域高齢者のつながりづくりを目的としています。コロナ禍であらゆる地域行事が中止になり、自宅に閉じこもりがちになった高齢者に地域コミュニティとのつながりを取り戻すため、2022年3月に始動したウォーキング講座を前身とする活動です。地域主体で高齢者共通の関心事である「健康」を基本に、参加者同士の交流を促すコンセプトが好評となり、発展を期待する声が上がるようになりました。すこやか倶楽部はその声を受けて、月1回の定例会に発展したものです。大原健幸の郷を会場として提供し、介護事業所のご利用者送迎の合間に車両を貸し出し。地域のボランティアドライバーが、参加者の移動をサポートすることで大原全域から毎月約35名が集う場になりました。この取り組みは、医療機関と地域が協力し、社会的孤立を防ぐ一つのモデルケースとして2024年11月に開かれた第30回左京区社会福祉大会(主催:左京区社会福祉協議会)で取り上げられ、後日、左京区長も視察に訪れました。今後も、地域の実情に応じて大原を支えていきます。
京都近衛リハビリテーション病院でも積極的な地域との関わりに取り組んでいます。これまで地域清掃や、児童館の子供たちとコラボレーションしたクリスマス会、健康教室、地域のお店からの取り寄せグルメ企画を職員向けにも開催するなど、様々な活動を続けてきました前身となるウォーキング講座
すこやか倶楽部の一幕
未来に向けた新病院の構想
京都大原記念病院グループは患者様・ご利用者の不安を取り除き、安心してご満足いただける医療・介護サービスを提供することを理念に掲げて歩み続けてきました。グループは2027年に京都大原記念病院の新築移転という大きな事業を控えています。移転は、老朽化に対応し、私たちが担う回復期リハビリテーション医療としての使命を全うするためのものです。機能分化と連携を基本とする地域医療において、赤十字病院、大学病院などが集積する河原町今出川に移転し、一層、地域医療に貢献します。そして今後も医療と地域の連携を強化し、グループ一体でより広域に京都を支えていきます。
移転地は伏見宮邸跡としての歴史を持つだけでなく、周辺には世界遺産の下鴨神社をはじめ、鴨川、京都御所など、京都を象徴するスポットが集中しています。これまで、グループは皇族が住持した三千院門跡のある大原で産声をあげて以来、比叡山に逃れる後醍醐天皇を奉護した八瀬童子で知られる八瀬に介護付き有料老人ホームライフピア大原Ⅰ番館を、京都御所の真南に御所南リハビリテーションクリニックを、そして五摂家に由来する近衞の地に京都近衞リハビリテーション病院を開院してきました。京都の重要な歴史や文化とゆかりのある場所で事業を展開してきたことも背景に、医療と地域社会、そして京都の歴史・文化が共生する新たな病院のあり方を模索し、次なるステージへと歩みを進めていきます。ライフピア八瀬大原Ⅰ番館
御所南リハビリテーションクリニック
京都近衛リハビリテーション病院