【おおはらリハビリ日記】脳卒中当事者視点で考える、やさしいまちづくり
「やさしいまちづくり」のあり方を、脳卒中当事者視点で発信ようと活動する人がいる。
北岡靖智さん(53)。父の代に創業され主に工芸品を扱うギャラリー三彩(さんさい・滋賀県大津市)を運営し、全国の百貨店で開催する展示会を駆け回る日々を過ごしていた2018年、出張先の福岡で脳出血を発症した。2年後の東京での再発もあり、現在も左半身に麻痺が残る。最近も24年4月まで約1か月の京都大原記念病院での入院を終えたばかりだ。
学生時代はサッカー部に所属。卒業後も学生時代の先輩と起業した会社で休みなく働くほど体力が充実していた北岡さんが、障害などを抱える方に「やさしいまちづくり」に関心が湧いたきっかけは、最初の発症後に町の見え方が一変したことだ。町にでかけると、道には段差があり幅も狭く、車椅子で道から出られない。駅のホームと車両にすき間があり「自分だけでなく小さな子供も危ないのではないか?」と、危険を感じる。これまで気にならなかったことが目に付くようになった。よく利用する駅のトイレが傾斜のある通路の先にあり、入り口に段差もあったことには「もはや障害者はトイレにも行くなということかと思えた」という。どこへ出かけるにも不安が伴った経験に、障害を抱える人が社会的に弱者となっている実態を感じたからこそ、当事者視点で「障害などを負った方にやさしいまちのあり方を考え、発信していきたい」と考えるようになった。
思い立ったら行動せずにはいられない。全国各地から脳卒中当事者らが集う脳卒中フェスティバルや、福祉施設や障害者支援施設、市議会議員との交流会など、気になる話題があれば足を運んでいる。2023年5月には、愛媛県松山市で「第10回サイクルチャレンジ」に参加した。主催したNPO法人NONちゃん倶楽部は、複数人が同時に乗車できるタンデム自転車等を用いた活動を通じて障害者と健常者をつなぎ、多様性のある社会の形成を目指している団体。視覚障害者と健常者が同乗するサイクリングイベントなどを開催している。北岡さんは、イベントで障害者、健常者の垣根を越えて活動する姿に刺激を受け「こうして多様な人が障害者、健常者などの垣根なく集まり、琵琶湖の周りで風をきって歩きたい」と想いを強くした。現在は病気などをきっかけに身体障害を負った人だけでなく、生まれつきさまざまな障害を抱える人なども含めたウォーキングイベントの開催を模索している。
生まれつき障害を持つ人と協働したいと思った原体験がある。最初の発症後、退院後に障害者支援事業所に通っていた当時、一人と目があった。知的障害のある利用者がまっすぐ自分を見て、優しく、にっこりと笑ってくれた。言葉にすれば特別なことでもないが、当時の北岡さんにとってはその優しさが大きな励みになり「今でも忘れられない」と語る。また当時、事業所へは電車とバスで通っていた。バスから降りる時に時間がかかるので、いつも他の乗客に先に行ってもらうように声をかけていた。ある日の帰り道で同じように声をかけると、たまたま事業所の利用者で「自分たちも時間がかかるから、気にしないで。ゆっくり行ってください」と応援してくれた。そして、事業所の利用者らが普段からなんでも素直に「ありがとう」と繰り返す様子も目にしていた。こうした心の優しさに触れて感動し、一緒に活動したいと考えるようになった。
話を聞くだけ、挑戦したいことはたくさん出てくる。障害が理由で周囲に迷惑をかけてしまうからと、映画館に行くこと(連れて行くこと)ができない人がいる。ならばそういう人達だけが集まって、映画観賞会が開催できないか。歩道に屋根がなく、天候が悪いと外出を控えてしまう人がいる。ならば駅から施設までの通路だけでも屋根の設置の要望をあげられないか。誰にも気づかれずに眠っている想いは山のように眠っている。当事者視点でこれらに気づき、社会にも目を向けてもらう機会をつくっていきたい。
折しも2025年は、滋賀県で国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会が開催されることはタイムリーなメッセージ発信にする大きなチャンスだ。模索しているウォーキングイベントも、まだ具体構想段階にたどり着いているわけではないが、これまで家業で出会ったアーティストや病後に出会った人との縁を頼りに仲間集めを進め、障害者も健常者も垣根のない社会を考え、いつか「やさしいまちづくり」につながると信じて発信していく。1人の脳卒中当事者として。
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