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【特集】日本人は座りすぎ!?

健康の社会的要因について科学的探求する「社会医学(疫学)」を専門とする京都府立医科大学 地域保健医療疫学 社会医学講座小山晃英さんに健康づくりの“生活習慣”について「座る」「睡眠」「飲酒」3つの視点から解説いただきました。第1回のテーマは「座る」です。本記事は、京都大原記念病院グループが生涯教育を通じてシニアの生きがいづくり、仲間づくりを目指す京都シニア大学と協働運営する京都シニア大学ウェルネス部での講演内容を採録したものです。

日本人は座りすぎ

「Sitting is the new cancer (座りすぎは新しいガンだ)」アメリカのアップル社CEOティム・クック氏がこう表現し、2018年に開設した新本社の全従業員にスタンディングデスクを導入したことが話題になりました。近年、座りすぎが健康に及ぼす悪影響が注目されるようになり、2020年にはWHOが発行した「WHO身体活動・座位行動ガイドライン」で「座りすぎで不健康になる」と明言されています。

日本でも、2024年1月に改訂された「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」で、「座りっぱなしの時間を減らす」という視点が加わりました。世界20か国を対象に行った調査で、座っている時間が1日7時間とサウジアラビアと並んで日本が最長であるという結果が出ており、国としても座りっぱなしを避けて「今より少しでも体を動かすこと(身体活動※1)」を推奨することが命題になっています。

※1. 安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する、骨格筋の収縮を伴う全ての活動

座りすぎは不健康になる

私の研究グループでも、6万人を超える日本人を7.7年間追跡調査した結果、座っている時間が2時間増えるごとに死亡リスクが1.15倍になることが明らかとなりました。また、座っている時間が5時間以内の人を基準とした場合、7〜9時間で1.20倍になって、9時間以上で1.54倍になりました。座っていると代謝が下がり内臓脂肪が蓄積していきます。内臓脂肪が蓄積すると、メタボリックシンドローム、動脈硬化、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病に影響し、心筋梗塞や脳卒中などのリスクにつながります。また座ることにより血流が滞りやすくなることも悪影響を及ぼす原因の一つと考えられます。研究では余暇の運動頻度と時間から身体活動量を計算して、活動量別に4つの群に分けて解析しました。その結果、座っている時間と死亡リスクの関係は、余暇の身体活動量にほとんど影響を受けていませんでした。つまり、平日は座る時間が長いから、休みの日に体を動かす…といった方法は通用しません。15~20分ごとに少し立つか、姿勢を変えることが難しい場合でも足を伸ばすなどして血流を促すことが大切です。

いつもより+10分、体を動かす工夫を

今よりも少し体を動かす「身体活動」は、日常生活の家事、労働、通勤・通学などに伴う「生活活動」とフィットネスなどで健康・体力増進を目的とする「運動」と分類され、それぞれに高齢者、成人、こどもに世代を3区分して推奨内容が示されています。

出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/001204942.pdf

65歳以上であれば、まずは歩いたり、掃除など体の動きを伴う活動※2を1日40分以上取り組んでみましょう。“ながら”で取り組める運動などを意識して、いつもより10分多く活動しようと「+10(プラステン)」というメッセージも発せられています。わかりやすいのは歩数です。国は全世代の1日平均歩数は男性が6,278歩(2019年)を、2032年に7,100歩に向上しようとしています。個人差はありますが、この差である約800歩がまさに、10分で歩ける目安の歩数です。10分歩くだけと考えると取り組むハードルはグッと下がるかもしれません。ただし、けがをしては元も子もありません。膝や腰の調子が悪い人は無理をせず、時にはプールで歩くことも水の浮力で負荷が減るのでお勧めです。

筋トレを含めたら、より効果的

+10分の活動に「筋力トレーニング」が含まれていると、なお効果的です。負荷をかけて週2~3日実践してみてください。専用器具がなくても、1.5ℓのペットボトルなどで負荷をかけるか、スクワットなど体重をかけながら筋トレを行います。胸、背中、腕、お尻、足腰など大きい筋肉のトレーニングを、少しずつ負荷を高めなら取り組むことが効果的です。
筋トレは筋力だけでなく、男性ホルモンの分泌を促して活力(やる気)をもたらします。特に男性は中高年にかけて男性ホルモンの分泌量が減り、やる気が起きずに物事を後回しにしたり、だんだん手がつかなくなりがちですので有効です。
ぜひ今日からいつもより+10分間、できれば週2~3回の筋力トレーニングを含めて実践してみてください。

※2. 運動や活動の強度を示す「メッツ」という指標で、3メッツ以上の活動が効果的です。具体例はこちら。健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023 p.39-40

 

 

  • ■ 解説
  • 小山 晃英 氏
  • 京都府立医科大学 地域保健医療疫学 社会医学講座 講師
    長野県出身(長野県長野高校卒)。岡山大学医学部を卒業後、信州大学大学院医学系研究科 循環病態学講座にて博士取得。博士課程では、心血管代謝内分泌領域の基礎研究に従事した。現在は、京都府立医科大学 地域保健医療疫学にて、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)を軸とした疫学研究と、行動科学を取り入れた社会実験に取り組んでいる。

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