【特集】適度なお酒との付き合い方とは!?
健康の社会的要因について科学的探求する「社会医学(疫学)」を専門とする京都府立医科大学 地域保健医療疫学 社会医学講座の小山晃英さんに健康づくりの“生活習慣”について「座る」「睡眠」「飲酒」3つの視点から解説いただきました。第3回のテーマは「飲酒」です。本記事は、京都大原記念病院グループが生涯教育を通じてシニアの生きがいづくり、仲間づくりを目指す京都シニア大学と協働運営する「京都シニア大学ウェルネス部」での講演内容を採録したものです。
飲酒の量は純アルコール量で測る
私たちの生活にとって身近に存在する「お酒(アルコール)」との適切な付き合い方を考えてみましょう。これまで飲酒量を測る時はアルコール度数や何杯飲んだかで把握することが一般的でしたが、2024年に国が策定した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」ではお酒に含まれるアルコールの量(純アルコール量)で示されています。大手ビール各社でも、2022年頃から順次、アルコール飲料に含まれている純アルコールの量をグラム単位で容器に表示する取り組みを進めています。
基本的にアルコールは血圧や中性脂肪を上げるなど、ある程度のリスクは併せ持ち、過度な飲酒は高血圧や脳梗塞、心疾患などに影響します。これらのリスクを高める純アルコール量の基準は、男性で1日40g、女性で1日20gとされています。一般的な500mlの缶ビール(度数5%)、焼酎の原液100ml、日本酒1合などにアルコール20gが含まれます。体格や体質により調整することが望ましく、特にアルコールを飲むと赤くなる方が多く飲むと、癌などいろんな病気のリスクがグンと上がります。タバコ等も加わると咽頭癌、食道癌などのリスクが10倍程度に跳ね上がります。
いきなりゼロにする(禁酒)のではなく、適度な量に調整する(減酒)視点が大切です。ビールの後にプラスで焼酎が飲みたくなるなら、適度に水割りで薄めたり、梅干しを入れたり、炭酸入れたり、レモン絞ってみたり、量増しやアルコール度数を低くして楽しむのも健康的にお酒を楽しむ一つの方法です。
フレンチ・パラドックス
1990年代、アメリカのテレビ番組の放送をきっかけに赤ワインブームが起こりました。放送された内容というのは「フランス南部では酒、たばこ、肉などの高脂肪な食事をするうえ運動はしないのに、心臓病(心血管疾患)が少ない。それは、赤ワインを飲んでいるからだ」というものでした。この番組をきっかけに1991年にはアメリカの赤ワイン消費量が実に44%も増加したというから驚きです。決して理想的とは言えない生活習慣と、疾患リスクの低下という逆説的な事象が起こっていることから「フレンチ・パラドックス」と呼ばれています。
赤ワインにはポリフェノールという成分が含まれています。細胞や血管を傷つけて、動脈硬化やがんなどの生活習慣病の原因にもなる活性酸素を無害にする抗酸化作用を持つ成分です。しかし、この成分が効果的に作用する量を赤ワインだけで補うには1日4ℓ程度の消費が必要になります。これを毎日消費するとさすがに体を壊してしまいます。フランスの1人あたりワイン年間消費量は46.9ℓ(2021年)でポルトガル51.9ℓ(2021年)に次ぐ第2位で、日本の3ℓ(2021年)に対して約15倍と確かに多く消費されています。また、赤ワインの消費量と死亡率で世界各国を比較すると、フランスやイタリアなど赤ワインを楽しむ文化の国々の死亡率が低く位置しました。しかし、フランスの一部地域で心疾患が少ない明確な根拠は解明されないままです。
付け合わせの選び方を意識する
一つ考えられるのは付け合わせの影響です。一般的にワインの付け合わせよりも、ビールの付け合わせの方が動物性の油が含まれるメニューが好まれます。ビールの付け合わせには、ラム、ソーセージ、マーガリン、もしくはバターなど体に蓄積されやすい動物性の油を多く含むものが選ばれやすい一方で、ワインの付け合わせに選ばれやすいものにはオリーブ、ローファットチーズ、フルーツもしくは野菜、オイルなど体から代謝するための油分が含まれているものが多くなります。ここで言うオイルは、例えばオリーブオイルのように加熱せずにサラダなどで食べるものです。適度な摂取でコレステロールをコントロールし、血管の中のプラーク(コレステロールが蓄積してできる血管のコブ)が増えて起こる動脈硬化などの予防に効果が期待できます。オリーブオイルや魚、ナッツなどを豊富に取り入れて赤ワインを楽しむ食文化としては地中海料理が知られています。地中海沿岸の国々では高脂肪食を多く食べるのに動脈硬化による脳血管疾患や心筋梗塞などが少ない傾向にあることでも注目が高まりました。純アルコール量はもちろん、付け合わせの選び方も重要な視点になりそうです。
お酒は生活に身近なもので、人とのコミュニケーションの手助けや、一時的にリラックスすることもできます。過度な飲酒はもちろん、急激な禁酒も辞めて「純アルコール量」と「付け合わせ」も意識して、体質に合わせて楽しんでいただけたらと思います。
- ■ 解説
- 小山 晃英 氏
- 京都府立医科大学 地域保健医療疫学 社会医学講座 講師
長野県出身(長野県長野高校卒)。岡山大学医学部を卒業後、信州大学大学院医学系研究科 循環病態学講座にて博士取得。博士課程では、心血管代謝内分泌領域の基礎研究に従事した。現在は、京都府立医科大学 地域保健医療疫学にて、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)を軸とした疫学研究と、行動科学を取り入れた社会実験に取り組んでいる。
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