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【おおはらリハビリ日記】人生で初めての入院で感じたことを、絵に込めて。

6月某日。京都近衛リハビリテーション病院のリハビリセンターに、温かい癒しを与えてくれる色鉛筆画が掲示された。作品は大腿骨骨折後に約1か月半、同院でリハビリに励んだ吉田秀成さん(67)が入院中に描き上げたもの。「一生懸命リハビリに取り組んでも、思うように行かないことが誰しもあるだろう。そんな時にこの絵を見て笑顔になってくれたら」と寄贈いただいた。

病院スタッフと記念撮影

全く知らない世界

4月某日に自宅で転倒し「この痛みはおかしい」と救急車を呼ぶと、手術を受けることに。そのまま人生で初めて入院することになった。安静に過ごした術後の約2週間、目の前に広がるのは「天井」ばかり。何をするにも看護師に頼らざるを得ない状態に「自分が経験したことのない状態になったんだ」と、先の人生が見えなくなるように感じざるを得なかった。鬱々とした気持ちが残るなか、体力を強化し、しっかりと自分の足で歩くことを目標に京都近衛リハビリテーション病院に転院となった。

鏡越しに緑が映る場所に掲示

ふとしたきっかけ

転院後、ふと心が救われるきっかけが訪れた。いつも通り、リハビリセンターへ車いすでセラピストと一緒に向かうと、たくさんの光が降り注ぐ明るい空間が一気に広がった。同院のリハビリセンターは東大路通り沿いに位置し、全面ガラス張り。明るい光と、窓越しに見えた街路樹の鮮やかな緑が目に入り、なぜだかわからないが「心が救われて、前向きな気持ちになれた」という。すると、ただリハビリしてベッドで過ごす毎日に疑問を感じ、足はダメでも手は動かすことができる「そうだ絵を描こう!」という気持ちになった。テレビ番組をきっかけに始めた色鉛筆画で「スタッフさんをモデルにメッセージを込めた絵にしてみよう」と思い立った。

病室でも描いた

描くことがモチベーションに

看護師に相談して画材を持ち込むと、絵を描くためのテーブルを用意してくれた。作品は特定の個人ではなく、吉田さんに関わった担当スタッフをイメージし表現したもの。親しみやすさを表現する象徴として犬、猫がモチーフになっている。ただし動物を描くものではないので髭は敢えて描かず、また目は人間風に描くなど工夫が施されている。

質感も感じる作品

全て色鉛筆で描かれた作品を間近に見ると、生地の質感やしわ、縫い目の方向をも感じる細部まで驚かされる作品になっている。最初は描き上げられるかどうか不安だったというが、絵を描いていると「すごいですね!」などと病院スタッフから声をかけられ、描き続けることができた。思えば今、グラフィックデザインを仕事にしているのも、学生時代に描いた絵を先生に褒められたのがきっかけ。懐かしい感覚も抱きながら、構想から仕上げまで約1か月をかけて進め、無事に完成した。吉田さんにとっては作品を描く時間が、リハビリを続ける「大きなモチベーションだった」という。退院前日まで余念なく、自分の足で段差の昇り降りや、歩行、立ち上がりなどの最終確認に取り組んでいた。

緑が映る場で仕上げのリハビリ

絵に感謝を込めて

退院前日には三橋尚志院長から、今回の寄贈に対する感謝状が手渡された。それとは別に献身的に支えてくれた26名の担当スタッフに感謝の気持ちを込め、1人ひとりの似顔絵に言葉を添えたメッセージカードが吉田さんから贈られた。吉田さんは、カードを手に「すごい!」「私が載ってる!」と会話が弾むスタッフらの様子を少し照れくさそうに、しかしマスク越しにも見て取れる柔らかな笑顔で見守っていた。

26名一人ひとりに送られた送られたメッセージ

少し照れ臭そうに見守る吉田氏

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