【前編】 京都シニア大学 熊谷篤理事長にお話を伺いました。
2019年4月京都大原記念病院グループと京都シニア大学が連携し「ウェルネス部」を創設しました。毎週木曜日、55歳以上のアクティブなシニアの学生16名とともに「心と身体の健康」をテーマにさまざまな活動を重ねています。そこで、今回は同大学 熊谷篤 理事長に同大学の成り立ちや今後の展望、ウェルネス部に寄せる期待などをテーマにお話を伺った内容を二部構成でご紹介します。第一部のテーマは「京都シニア大学の成り立ちや魅力」について。ぜひご覧ください。
- (後編「京都シニア大学の展望、ウェルネス部への期待」はこちら)
教育を通じて、社会全体をより豊かにすることを目指して創立
創立は1973(昭和48)年4月。今から46年前に、東寺近くの事務所を借り「京都老人大学」としてスタートした。創立者は、現理事長の父・熊谷晋一氏(以下、晋一氏)。元は京都市立中学校の教員として勤務。70年代当時、高度経済成長ほどではないが、時代は成長気運。「教育」も未来を担う若い人材に向いていた。しかし、晋一氏はいずれ高齢者が増えることも予見して「生涯教育」に目を向けた。高齢者にも教育を提供し、知識を蓄えていただく。「教育を通じて、社会全体をより豊かにする」ことが創立当時の願いだった。当時は生涯教育を掲げる人もいなければ、高齢者に目を向けた事業展開も少なく、物珍しく見られたそうだ。
同大学の初代学長は、故・石川忠氏(元宮内庁京都事務所長)が務めた。石川氏は、かつてアメリカのフォード大統領が京都御所を拝観された際にアテンドされ、また着物をはじめとした京都文化の伝統を守り広める活動もされていた。晋一氏は教職を辞した起業準備期間中に着物教室を運営するためのマニュアルを整備し、今でいうフランチャイズのような形式でビジネス展開をされるなど、着物文化の伝承にも貢献されていた。このこともあって石川氏と意気投合し、京都老人大学初代学長の就任を依頼することになった。
石川氏が、開校時掲げたスローガンは「誇り高き老後」。このスローガンのもとに29名が集いスタートした。開校当時は、高齢者が日本全体で増加したこと、高齢者の体力(健康な老人)と知識欲が増してきたこと、そして周辺に競合がなかったことから、学生数は増加の一途をたどりピーク時は400名に達した。
時代の変化に伴い、一時苦境に立たされた大学運営
しかし、これまで決して順風満帆だった訳ではない。平成に入った頃から徐々に公共の高齢者向けの学習教室が増加するなど、競合環境が様変わりした。結果として価格競争なども生まれ、2012(平成24)年には学生数が100名を切るまでになった。
現理事長 熊谷篤氏(以下熊谷理事長)が関わるようになったのは、この頃からである。当時、自身も独立して旅行業を営んでいた(現在も兼業)が、一時大学内の事務所を間借りしていた。そのため学校の雰囲気や運営などは常に目に入っていた。運営状況が芳しくない状況も当然ながら理解しており、創立者で父の晋一氏が「辞める時が来たかな・・・と、さみしそうにふと漏らしていたことは鮮明に記憶に残っている」そうだ。自身としても、「減ったとは言え100名近い学生さんがまだ利用してくれているのに、いきなり閉校にしたくない」。事業を引き継いでくれる方を探すなどしたものの、結果的に自身の旅行業と兼業する形で引き受けることとなった。そこから、営業活動などに取り組み、2019年10月現在の学生数は218名。「これからもたくさんの学生さんに利用してもらいたい」と話す。
大学の講座運営は学生主体。その風土が学校最大の魅力に。
同校は毎週木曜日、京都新聞ホールで開校している。午前は、全学生を対象とした教養講座。午後は、任意で選択する絵画、書道、史跡探訪、そして京都大原記念病院グループが連携するウェルネス部といった選択科目が開講され、人によっては謡曲や英会話等の同好会などにも参加される。
各講座は、ほぼ全て学生により運営される。全学生が対象となる教養講座の場合、カリキュラムは事務局が学生の意見を取り入れて一緒に考案、決定する。その後の事務的調整は事務局が担うものの、講座が始まれば会場設営、音響や照明の調整、同期会・誕生会の案内や受付など、授業現場の運営は一切学生が行う。学生自身も「自分たちで学校を作る」という意識から主体的に取り組む姿が印象的だ。
かつてのピークと比べればまだ盛り返し途上と言えるが、周辺競合が増えるなかで学生数が倍以上に増加しているのはこうした風土が一番の要因。熊谷理事長曰く「一人一人が単にお客様になるのではなく、役割や意欲を持って取り組める風土が同校の最大の特徴」だ。授業以外でのコミュニケーションも盛んだ。特に10月、11月に開催する文化祭では、展示や発表のために授業以外でも学生同士が集まって、リーダーを中心にそれぞれの役割を果たすことで個々のつながりが強まっている。また大学自体に在籍期間の制限は設けていない。節目ごとに「卒業」や「大学院」という表現をすることもあるが、先の風土もあってか長い人では30年を超える人もいるという。
学生は55歳以上100歳近く幅広い世代で人生背景も多様。京都市内だけでなく、周辺の亀岡市や宇治市、綾部市、滋賀県、大阪府などから集う。男女半々という比率は外部講師もたいてい驚かれるそうだ。共通して一様に元気でアクティブ(活動的)な秘訣はなんだろうか?と尋ねると、熊谷理事長は「ただ漠然と生活されているのではなく、男女を問わず何かを追い求めていること」ではないかということだ。歴史上の●●をもっと深く知るだとか、楽器の演奏をうまくなるだとかそれぞれに目標がある。男女で多少の性質の違いはあるだろうが、「学生それぞれに何か目標や目的があり、それが学びの意欲や知識欲につながっているのです」と言う。
- (後編「京都シニア大学の展望、ウェルネス部への期待」はこちら)
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